「どこでもバンジーVR」を全国に届けたい。~踏み出す一歩に勇気がもてる体験を~

野々村さん

「どこでもバンジーVR」を広めたい。

言葉を聞いただけでは頭の中に?が浮かぶ方も多いかと思います。そんな不思議でワクワクする活動をされているのが、野々村哲弥さんです。「どこでもバンジーVR」とは何か? なぜそんなことを考えついたのか。そこには、野々村さんが多くの人に届けたいと願う、ある「空想」がありました。

野々村哲弥(ののむら てつや)

株式会社ロジリシティ 代表取締役。
FMラジオ業界で12年勤めた後、脱サラして移動式VRアトラクション『どこでもバンジーVR』を開発。総務省 異能ジェネレーションアワード2019ノミネート。「生きる喜び」を伝える体験や冒険を創っています。

目次

都庁の上からバンジージャンプ!?

ーー野々村さんのこれまでの経歴について教えてください

野々村さん
就職で上京し、FMラジオ業界で12年ほど働いておりました。ラジオ番組の制作 / 広告営業 / 新規事業…など色々やっていたのですが、もっと世の中を驚かせられるような体験をつくりたい!と思い、会社を辞め、試行錯誤を経て、”VRバンジージャンプ”という分野に辿り着きました。

ーーVRバンジージャンプとはなんですか?

野々村さん
VR(Virtual Reality。仮想現実)を用いてバンジージャンプを再現したアトラクションです。VRバンジージャンプ自体はもともと存在していたものなのですが、椅子に座ったままゴーグルをつけて、映像のなかで落下するだけのものばかりで…。「自分の意思で飛び込む」ところがバンジージャンプの魅力なのに、それが全く体験できないじゃないか! と悔しくなったんです。

そこで、ゴーグルをつけている生身の身体も映像に合わせてグルンと逆さまになるような装置を作ろう、と思い、「VRバンジージャンプ装置(どこでもバンジーVR)」というものを制作して、現在は事業化して世の中にVRバンジージャンプを広めることを目指し、活動しています。

「本物そっくりのバンジージャンプを体感できるような装置を作ろう!」。そんなコンセプトのもとに、VRバンジージャンプ装置「どこでもバンジーVR」を制作しました。大型と小型の2種類の装置あり、そのうち、より手軽に体験していただけるのは、こちらの小型の装置です。

「どこでもバンジーVR」の小型バージョン

ーーなんだか変わった形の装置ですね。

野々村さん
さまざまな形を試作し、実験を重ねた結果、この装置にたどりつきました。挑戦者は、このシーソーのような台にうつ伏せに寝て、ゴーグルをつけます。ゴーグルに映し出されているのは、VR映像です。その映像に合わせて、シーソーがパカっと回転し、頭から真っ逆さまに落ちていくような状態になるのです。

この装置のキモは、VR映像にあります。初期のプロトタイプ版では3Dブロックの景色を見ながら落下するものだったのですが、現在は「東京都庁の屋上から飛び降りて落下する映像」を映し出しています。

ーー都庁から! その映像は、どう再現されたのですか?

野々村さん
さまざまな都市の3Dデータを制作している開発パートナーの(株)キャドセンターさんに、地上234mの東京都庁の屋上から大ジャンプしているかのような映像を再現していただきました。実際に体験していただくとわかるのですが、その再現性は生半可ではありません。眼下には西新宿の高層ビル群が事細かに映しだされ、遠くを見ると東京スカイツリーや富士山も見ることができます。

どこでもバンジーVRでは、都庁の屋上からの高さをよりリアルに体感できるよう、都庁の大きな2本のタワーの間に、T字にせり出す鉄骨をVR上につくりあげています。体験者は、T字の先に向かって徐々に徐々に進んでいき、先端のジャンプ台に到着。しばらく眼下の風景を眺めてもらいます。

ジェットコースターも頂上にあがっていくまでのドキドキ感の方が、落下している時よりも怖いですよね? このT字の鉄骨も同様に、移動している最中に恐怖をより増幅させるような仕掛けをつくっています。

ーー聞いているだけで、怖くなってきました(笑)。

野々村さん
高所恐怖症の人なら、移動する映像を見るだけでも手に汗をかくほど。先端のジャンプ台にたどり着く前に、「やっぱり飛びたくない」と辞める人もいらっしゃいました。先端のジャンプ台に到着したら、「3・2・1、バンジー!」で、地上めがけて急降下。一気に地面が迫ってくる感覚を味わえます。落下時間はおよそ4秒。実際のバンジーの落下速度よりも約2倍の速さで落ちるので、VRでこそ味わえる凄まじいスピードを体験できます。

バンジージャンプは落下後、反動で空中に戻される浮遊感がありますが、それらを感じられる工夫もいくつか用意しています。本当に都庁の屋上からバンジージャンプをしているような感覚を楽しむことができますよ。

ーーちなみに、大型の装置はどんなものなんですか?

野々村さん
この写真のものです。

「どこでもバンジーVR」の大型バージョン

大型の装置では、挑戦者に高さ1.2mある、中央のジャンプ台に上がってもらいます。腰と肩にフルボディハーネスを装着し、VRゴーグルをつけた後、ジャンプ台の崖っぷちに立ってもらい、挑戦者本人の意思で空中へと飛び込んでもらうのです。すると、腰を支点に体がぐるんと回転して、頭から真っ逆さまに落ちているような状態になります。それに合わせて、VR内の映像では、都庁の屋上から落下している映像が流れます。

ーー怖いですが、ちょっとやってみたくなってきました。実際にVRバンジーを体験された方々の反応はいかがですか?

野々村さん
「めちゃくちゃ怖かった」といってくださる方が多いですね。「今までのVR体験のなかで1番面白かった」「本物のバンジージャンプは絶対無理だとわかりました」なんて声もいただきました。逆に、「本物をやってみたくなった!」という人もいました。映像に関しても、「都庁の映像を何度もやってみたい」という人もいれば、「他のところから飛んでみたい」という人もいました。飛べる場所は無限にありますから、今後さまざまな映像で実験してみたいですね。

「踏み出す一歩を創り出したい」とバンジージャンプに着目

ーーそもそも、なぜバンジージャンプだったのでしょう?

野々村さん
「自らの意思で恐怖を乗り越える」という意味では究極の体験だと思うからです。私は「やったことのないことをやってみたい」気持ちがとても強く、スカイダイビングやスキューバダイビングなど、さまざまなことに挑戦してきました。なかでも最も印象に残ったのが、バンジージャンプでした。

インストラクターが手取り足取り教えてくれるような他のアトラクションなどと比較しても、バンジージャンプは、自分一人で飛ばなければいけません。しかも、数十mもの高さから飛ぶ。命綱がついていますが、これが切れたら100%助かりません。ジャンプ台に立った瞬間、圧倒的な怖さで、現実が現実でなくなる感覚があります。しかし、それを全て受け入れて、運命を信じながら、自分の意思で不確かな中に飛び込んでいく。その恐怖を乗り越えてチャレンジした後の爽快感……。これがたまらないんですよね。

ーーそんな体験を再現しようと思われた、と。

野々村さん
FMラジオ局に勤めていた頃から、誰かがやってみたいと思うような体験をつくって届ける仕事をしたいと考えていたのですが、何を届けるか、しばらくは固まっていませんでした。さまざまな人の話を聞きながら絞り込んだのが、バンジージャンプだったのです。

ちょっと怖くて遠ざけたいような体験だけれども、勇気を出して一歩を踏み出してみたら、新しい扉が開き、自分の世界が広がっていく。踏み出すことの大切さを知り、また新たな挑戦へと踏み出す勇気が湧いてくる……。バンジージャンプには、そんな力があると思うのです。ならば、VRなどのテクノロジーを使って、バンジージャンプに近い体験を提供できれば、「踏み出す一歩」を創り出せるのではないか。そんな空想を形にしたいと考えたわけです。

ーーいつ頃からVRバンジーの開発をはじめられたのですか?

野々村さん
2018年の10月ですね。最初は協力者もほとんどいない状態でしたが、VRのプログラム制作に関しては、VRゲーム開発者が集まるイベントに足を運んで、「こんなVRバンジージャンプを作りたいんだ!」とパワーポイントでつくったイラストをひっさげて協力者を募集していました。

構想段階での実際のスケッチ

すると「ちょうどそういうものがつくりたかった」というフリーのゲームクリエイターさんが声をかけてくださって、一緒に開発することになりました。もともとその人はVRプログラムを書ける方だったのですが、スキルをいかしてアトラクション的なコンテンツをつくりたいと思っていたそうなんです。まさにうってつけの方でした。

ーーフットワーク軽く動いてみることで、活路が見いだせたのですね。装置の方はどのようにして制作されたのですか?

野々村さん
どうすれば、バンジージャンプのような落下感覚や浮遊感を再現できるのか。そうして頭の中に思い浮かべたものを1つ1つ形にしていきました。クッションのようなものに倒れ込む装置や、鉄棒のようなものに吊るされて飛び降りる装置、車輪のような形で転がす装置……。とにかく試行錯誤を繰り返しました。

試作品はほとんど一人でつくりました。DIYが得意な方ではないのですが、やろうと思えば、どうにかなるものです。鉄パイプはホームセンターで切ってもらえますから、あとはジョイントさえすれば、それなりのものは出来上がります。あ…一度、飛んだ瞬間に装置からネジが落ちてきて、冷や汗をかいたことはありますが(笑)。こうして1年ほど開発に取り組み、最終的に行き着いたのが、小型で採用した「シーソー型」と、大型で採用した「逆さま鉄棒吊るされ型」でした。

試作の様子

ーー試作段階では野々村さんも実際に飛ばれたと思うんですが、怖くなかったですか?

野々村さん
これが、なんとめちゃくちゃ怖かったんですよ。その感覚がバンジージャンプにとても近かったので、「これはイケるかも」と思いました。

ーー開発資金などは相当かかったのでは?

野々村さん
もちろんそれなりにはかかったのですが、実は、VR映像の開発や装置の部品制作などの大きな部分では、それほどかからずに済みました。開発に関わってくださった企業さんやゲームクリエイターの方がVRバンジーへの挑戦に共感し、協賛という形でご協力いただけたのがその理由です。

事業化している現在の大型の装置の支柱などはアルミトラスという資材を使用して組み上げているのですが、そこに付けるレールや台車などの実装部分は、株式会社丸橋鉄工さん(http://www.maruhashi.co.jp/)にご協力いただいています。普段は様々な金属製品をつくっている会社なのですが、「こうしたエンターテイメントにも挑戦することが、社員のモチベーションにもつながる」と興味を持っていただいたのです。

VR映像も、試作段階で協力いただいていたゲームクリエイターさんは「経験になるから」と無償で制作してくださり、キャドセンターさんも役員の方とのご面談で、「お互いのビジネスにプラスになりそうだ」と協賛という形で、3D都市データを用いたプログラム開発に取り組んでいただきました。

ーービジネス面でのメリットだけでは、なかなか無償にはならないと思います。「踏み出す一歩を創り出したい」という野々村さんの想いに共感してくださったところもあったのでしょうね。

野々村さん
皆さんのご協力なくして、「どこでもバンジーVR」を形にすることはできませんでした。だから、何としてもお礼をしなければ、という気持ちでいっぱいです。

それには、このバンジージャンプビジネスを何としても世の中に広めていかなければなりません。多くの方に体験していただくにはどうしたらいいか、と日々試行錯誤を続けています。

自分自身の空想をカタチにする喜び

ーーしかし、このコロナ禍で、広めていくのは難しい状況にありますね。

野々村さん
そうなんです。正直、2020年は身動きが取れず、苦しい思いをしました。しかし、せっかく作り出したVRバンジージャンプを、一人でも多くの方に体験していただき、「踏み出す一歩」の大切さをお伝えしたい。

そこで、いま考えているのは「全国ツアー」です。早くて今年(2021年)の春から、小型の「どこでもバンジーVR」を軽自動車に積んで全国を周ろうと思っています。このサービスを知らない人たちに知ってほしい。それならお客様が来るのを待つのではなく、こちらから出向いていけばいいのでは、と考えたのです。いま住んでいる部屋を引き払って、全国を隅々まで巡りたいと考えています。

バンジーの装置という風変わりなものを荷台に積んで、「全国ツアー」という名の旅行をしているやつがいる。その事実だけで、「変なやついるなぁ」と笑ってくれるんじゃないかなと思います。全国ツアーのバンジージャンプって聞いたことある? って(笑)。それをカタチにしてみたいなと思っています。

ーーまったくめげている様子はなさそうですね。

野々村さん
そうですね。まだ企業秘密になりますが、この「どこでもバンジーVR」に関して、装置の改良や、もっと世の中に広める為のプロジェクトも推し進めています。先日は、正月の全国ネットのテレビ番組でも取り上げていただき、松本人志さんに体験していただいたことで、大きな反響がありました。今年はかなり面白い年になると手応えを感じています。

ーー結びに、「こんなことをやりたい」と空想を描いている人へ応援の一言をいただけますか。

野々村さん
「これ、実現したら面白いのでは…?」と空想することは誰でもあると思うのです。多くの人はそれをカタチにしようとはしませんが、実際にカタチにしようと踏み出してみると、ものすごくワクワクする体験が味わえる。誰かのお仕着せではない、自分だけが楽しめる体験ができる。まさに私はそれを実感しています。だから、皆さんにも、自分の空想を面白がって、それぞれが思う”面白い”をやってみようよ! そんなメッセージを送りたいですね。

私自身も自分の”面白い”ことで誰かを喜ばせたいし、誰かのやっていることで笑い転げることが楽しいので、お互いの”面白い”を面白がれるような世の中になっていけばいいなと思います。一緒に頑張りましょう!

取材を終えて
お会いする度に「なんだこの面白い人は!」という感覚が増していく不思議な魅力をお持ちの野々村さん。今回は個人的にも気になっていたその魅力の理由を探ってみました。ご自身が提供する体験で全国の人たちをワクワクさせる。そんな空想を抱いて全力で活動される姿そのものから、笑顔や踏み出す一歩に勇気をもらっていたのかもしれません。野々村さんが創り出した空想で、”面白い”が溢れていく未来を楽しみにしています!

空想ポストでは、Twitterで皆さんの「空想」を募集しています。お気軽にご投函下さい!
空想ポストTwitterアカウント:@kuusoopost

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

愛知県豊橋市出身。内装デザイン/コミュニティデザインを学び、2020年春より岩手県釜石市へ移住。音楽とみうらじゅんをこよなく愛し、訪れた街の看板撮影を趣味とする。

目次
閉じる