【プロフィール】
・大川竜弥(おおかわ・たつや)さん
自称・日本一インターネットで顔写真が使われているフリー素材モデル。1982年生まれ。ユニクロの店員やライブハウス店長、プロレスラーであるザ・グレート・サスケのマネージャーなどを経て、2012年12月にフリー素材のぱくたそ(https://www.pakutaso.com/)でフリー素材モデルデビュー。「もしかして、年収低すぎ!?」や「いまでしょ」などのパロディ素材やニッチで使いどころが少ない「寂しいクリスマスを過ごす独男のシングルベル・クリぼっち」「隣に住む住人の音に抵抗する孤独な壁ドン男」などの企画を公開。2019年現在は、ぱくたその広報も担当。
「クリぼっち」「年収低すぎ」「砂浜PC」……。どこかで見かけたあの写真
ーー取材の前に、改めて大川さんのフリー素材をいろいろ見たんですが、いやあ、ホントにいろいろなシチュエーションがありますね。2時間ぐらい見入っちゃいました(笑)。
大川さん
ありがとうございます。最近もいろいろ撮っていますよ。先日も、仕事でお世話になった方から、勇者が持つエクスカリバーと悪魔のかぶり物を提供していただいたので、パソコンが並ぶオフィスであれこれ撮影してきました。 ――また面白そうな取り合わせ…(笑)。画像ができあがってくるのが楽しみですね。
フリー素材のアイデアはどうやって生み出される?
ーーこういうフリー素材はどうやってつくっているのですか?
大川さん
基本的には、僕と「ぱくたそ」運営管理人兼カメラマンのすしぱくさんとフリー素材のネタを考えて、どんどん撮りためています。原案は僕の方で考えることが多いですね。
ーー想像の斜め上をいくようなアイデアもたくさん生み出されていますが、こういうアイデアってどうやって思いつくんでしょう?
大川さん
何もないところからアイデアがパッと浮かんでくるかというと、そういう感じではないんですよ。よくアイデアマンみたいに言われるんですけど、実は全然そうじゃありません。
ーーえ、そうなんですか! では一体どうやって?
大川さん
かっこよく言えば、入念な「市場調査」ですね。僕、インターネットが好きなので、暇さえあれば、ずっとネットで情報収集しているんですよ。ありとあらゆるニュースサイトをRSSリーダーに登録していますし、TwitterやFacebookといったSNSやはてなブックマークなども毎日見ています。1日何千件にもなるので、さすがに全部はチェックできませんが、タイトルが気になった記事やたくさんシェアされている記事、自分のフリー素材を使っていただいている記事を中心に見ています。 そうして、世の中の皆さんの関心がどこにあるのかを掴んで、「こんな素材があったらウケるのでは?」と考えているんです。どんなものが流行るかを予測して、当て込んでいくようなやり方ですね。
ーー無料のフリー素材なのに、そこまで手間をかけているんですか。
大川さん
僕は、フリー素材モデルは「接客業」だと思っています。使ってくださる方に喜んでもらいたいし、楽しんでもらいたい。そのためにはどんなフリー素材が求められているかを見つけ出す必要があると思うんです。撮影の時に「自分自身が楽しむこと」も心がけています。楽しんでいないと、それがフリー素材ににじみ出るんですよね。100人中99人が気付かなかったとしても、1人が気づいたら台無しになります。自分だけでなく、カメラマンさんも楽しんで撮れるようにすることが、良いフリー素材づくりには欠かせないと思っているので、現場の雰囲気を良くすることも心がけています。
ーー1枚のフリー素材の裏側にも、そんな積み重ねがあったんですね。
「誰もやりたがらないからこそチャンス」という空想が当たる
ーー2012年からフリー素材モデルを始めたそうですが、もともとこういう職業ってあったんでしょうか?
大川さん
フリー素材に出ている人はもちろんいましたが、「フリー素材モデル」と名乗ったのは僕が初めてなんじゃないかと思います。
ーー大川さんがパイオニアというわけですね。しかし、なぜフリー素材モデルになろうと?
大川さん
きっかけは、29歳の時に、原付バイクで走っている最中に当て逃げにあい、腰を痛めて働けなくなってしまったことです。事故をした当時は、家電量販店で携帯電話の契約スタッフをしていたのですが、立ち仕事ができなくなり、困ってしまいました。そこで「体が動かなくてもできることはないか」とネットを見ていたら、フリー素材サイトを見つけたんです。それで「これだ!」と思ったんですね。僕はイケメンでもないし、スタイルも良くありません。でも、フリー素材のモデルは容姿が良い人ばかりが求められるわけではありませんから、僕にもできる可能性がある。
それに、「誰もやりたがらない」という点にも惹かれました。使われても1円もお金が発生しませんから、たくさん稼げるとは思えません。でも、誰もやらないからこそチャンスだと思ったのです。フリー素材でどんどん使われて、世間に顔が売れれば、何か仕事につながるのではないか、とも思いました。
ーー実際はどうだったんですか?
大川さん
最初は、周囲の人にバカにされたんですよ。「動けなくて、お金が必要なのに、わざわざお金にならないことをしてどうするんだ」って。でも、フリー素材モデルを始めて1年ほど経った頃に、大手企業から有料モデルのお仕事をいただけたんです。
ーー顔が売れれば何かが起こる、という空想が本当に当たったわけですね。
大川さん
これで手応えをつかんだのですが、もう一つ大きかったのは、いろんな人から応援されるようになったことです。フリー素材のユーザーから「無料なのに、こんなに質の良い素材を出してくれてありがとう」「単純に見ていて楽しいです」と感謝の声をいただいたり、すしぱくさんを始めとした人が協力してくれたりしたことで、「これなら上手くいくだろう」という自信につながりましたね。 今もユーザーから喜ばれるのが一番のやりがい。今後も死ぬまでフリー素材を撮り続けていきたいし、自分の遺影もフリー素材にしたいと本気で思っています(笑)。
鍵は「周りの人から応援してもらえるか?」
ーー結びに、「自分の空想を形にしたい」という読者に向けて、メッセージをいただけますか?
大川さん
どんな空想を形にするにしても、上手くいくかどうかの鍵を握るのは、「いかに周りの人に応援してもらえるか」だと思います。フリー素材は、やろうと思えば、一人で三脚を立てて撮影することもできますけど、一人でできることなんて限られています。すしぱくさんや応援してくれるユーザーが支えてくれたからこそ、なんとか9年間やってこられたのだと思うんです。
逆に言えば、応援してもらえなかったとしたら、諦めも肝心だと思います。よく「3年続けなさい」みたいなことが言われますけど、まったく応援されないことを3年続けても結果は変わらないのかなと。現実的かもしれませんが、その見極めはすごく大事だと思いますね。
ーー本日はありがとうございました!
取材を終えて
「新たな空想を形にするためには、いかに応援されるかどうかが大切」。未知の仕事を切り拓いてきた大川さんだけに、すごく説得力がある言葉でした。空想を大きな形に育てるためには、そのプロセスのなかで「いま、応援されている?」とこまめに自問することが大切なのかもしれません。大川さん、これからも想像の斜め上をいくフリー素材を楽しみにしています!